第140回芥川賞を受賞した津村記久子の『
ポトスライムの舟』を読んだ。イントロから入りやすく、最後まで一気に読め、あれ、もう終わりかと思うほど「了」があっと言う間にやって来る。30歳の女性の芥川賞作品という情報に接すると、予断として文章や文体の未熟さやクセの強さを意識し、読む前から何か身構えてしまうが、この作品にはそうした偏見は無用だった。プレーンでオーソドックスな短編小説として抵抗なく読める。むしろ、どちらかと言えば、物語に変化が乏しくて、内面的な深さや作者のメッセージを強く感じさせないところに不満を覚える読者の方が多いかも知れない。事前情報から受ける先入観に較べて毒がない。この意外な毒気のなさが、私には不満よりも好感の方に作用して、作品と作者に対する積極的な評価となった。それは、この作品には続編がありそうだという期待感にも繋がっている。これから波乱のドラマが続きそうな余韻が残り、登場人物たちのその後の運命に想像を掻きたてられる。私は、この小説はテレビドラマの脚本として完成が可能なのではないかという印象を持った。ナガセ、ヨシカ、りつ子、そよ乃、4人の人生はどうなるのだろう。