スリーフィンガーのギターのイントロが印象的な名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」は、1971年の4月5日に発表になっている。この曲を聴いて広がるイメージは、日本のどこにでもある地方の田園風景で、目の前に草っ原が広がって、小川が流れているような場所で、隣に座った女の子と二人で景色を見つめている感じである。日本の自然の情感がやさしく溶けている。70年代の日本の田舎は自然が豊かで、吹く風の中に森や花や草の匂いが生き生きと感じられた。この曲の中には70年代の日本の自然があり、その当時の瑞々しい青春の心がある。今の日本の若い音楽家のヒット曲の中には自然がない。自然の情景が浮かんでくる歌詞がない。それはきっと少年期の生活空間の中に自然がなかったからだ。この曲は、後に中学校の音楽の教科書に載り、幅広い世代に愛され続けることになるが、まぎれもなく70年代の歌としての個性を持っている。文部省が教科書に載せた理由も、この曲の、「一時代過去」という意味での古典文化性に着目したからだと私は思う。この曲を70年代的な創造性に特徴づけている要因は、加藤和彦ではなく北山修がもたらしたものである。追悼の言葉で、「常に時代の最先端を走っていた」と誰かが評していたように、加藤和彦の創造性には時代に制約されたところがなかった。60年代から活動を始めた音楽家でありながら、すでに80年代的な特性を身につけていた。「ナショナル住宅」のCMソングなど典型的で、80年代でも、90年代でも、現在でもそのまま通用するセンスがある。