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新しい遠距離恋愛
2015-09-08 17:10:00
テーマ:
恋は手打ちうどん
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遠距離恋愛という言葉は、かつて学生の間では辛い恋愛の代名詞だった。いや、私はもう学生では無いから分からないのだけど、若い人たちにとっては今でも辛い恋愛形態の代名詞なのかもしれない。
経験があるから分かるのだけど、進学や転勤などで恋人と離ればなれになるのはいかにも辛いものだ。歌や書物で、遠く離れた愛しい異性への告白や想いを綴るのは非常に重要なテーマであるし、それは太古の昔から変わらない人情であったと思う。孔子の教えをまとめた「論語」にも、例えば下記のようなエピソードが紹介されていて、私たちは数千年前、文化も人種も異なる人たちと、驚くほど基本的なところで変わりが無い事を知り、感動を覚える。
《唐棣の華、偏として其れ反る。豈に爾を思わざらんや。室、これ遠きのみ、とあり。子曰く、未だこれを思わざるかな。何の遠きことかこれあらん》(子罕第九 宮崎市定「現代語訳 論語」)
唐棣(にわざくら)の花がひらひらと舞うと、遠く離れたあなたをどうしても思ってしまう。でも、家が遠くて逢いに行けない。そんな詩を、孔子は「遠くて逢えないなんて言い訳言ってるようじゃ本当の恋じゃねーよな」(松本誠二 超訳)と一刀両断しているといったところか。学校の古典の時間ではあまり取り上げられない、孔子の男らしい情熱家ぶりが垣間見られるくだりだ。
2000年以上も前と現代とで、遠く離れた恋人へ募らせる想いの辛さや、それをバネとしてはねよけようとする情熱の本質は変わらないけれど、過去と現在、それから、若い人とさほど若くない人(大人)とでは、遠距離恋愛に対する処方箋は少し違うのではないか。最近、そんな事を考えるようになった。
まず、昔と今とで一番決定的に違うのは、遠距離恋愛のストレスを大幅に取り除いてくれるツールが現在はあるというところだ。インターネットである。
mixiやFacebook、TwitterやLINEといった各種SNS(ソーシャルネットワークサービス)で会話を楽しむ恋人たちがたくさんいる。Skypeなどのテレビ電話を使えば、どんなに遠距離にいようが一応目の前に相手がいる感覚でおしゃべりができる。私たちは、10年20年前では考えられなかった、マンガの中のような世界にいるという言い方もできるだろう。ポケベルに、日本語を数字で置き換えてコミュニケーションをとっていたなどという話をしても、40代以降の人間にとっては懐かしい話だが、若い人にはその意味さえ理解できないのではないか。
いまだにインターネットを「怪しいツール」とか「個人情報がばれる怖いモノ」のように捉えるヒトビトがいて、彼らは「Facebookは不倫の温床」などと世間を煽るが、他人がどうこう言おうが、インターネットを上手に使って愛をはぐくむ男女は今後もっと増えるだろう。
しかし、どんなツールにも向き不向きというものがあって、例えばアメリカでは、交際中のパートナーからFacebookの投稿にたいして「いいね!」がもらえなかったのが原因で傷害事件が発生するという、ウソみたいな本当の話があるそうだ。案外こうしたトラブルは、平安の昔から言葉の裏に気持ちを読み取ろうとする、私たち日本人の間でこそこれから起こってくる問題かもしれない。「どうして投稿に反応してくれないのだろう?」という不安が一人歩きしたり、近況や写真の投稿に、いちいち全部反応されてげんなりするケースもあるだろう。
つぎに、若い人と違いそれなりに歳を重ねた大人なら、(普通)精神的にも経済的にもある程度自立をしているから、毎日べったり一緒にいるより、ある程度距離を置いたほうがかえって気持ちが通じ合えるという場合もある。「逢いたくてたまらない」「一緒にいないと寂しい」という気持ちは恋愛の切なさをもっとも表すものだと思うけど、得てしてそれは相手に対する“依存”だったりする。一人前の大人なら、自分1人の時間を大切にしたい気持ちや色々他の付き合いもあるのが当然だから、一方的に依存されても「重たい」だけだ。お互いの人格を尊重しあって遠距離を楽しむ。先のインターネットの話も絡めて、今後遠距離恋愛を無理なく楽しむ男女が、独身同士はもちろん夫婦間でももっと増えるのでは無いかと私は思っている。
もっとも、遠距離恋愛のストレスがかつてに比べて無くなったとはいえ、男も女もそんなに“独立”した個人でばかりもいられない。重たい依存は避けたいところだが、24時間仕事をバリバリこなし、親として子供と向き合う事ができる、独立した大人などいるだろうか。
いつもべったり一緒の関係より、良い意味で一定の距離をたもった男女のほうが長く仕合わせを紡いでいけるが、相手の心の穴や、頼りたい気持ちを察したらあらゆる手段を講じて距離を縮める必要がある。時には距離が必要だけど、また、時にはその距離をゼロにして、ぴったりと抱きしめ口づけを交わし「愛しているよ」と言わなければならない。
「遠くて逢えないなんて言い訳言ってるようじゃ本当の恋じゃねーよな」という、大昔の情熱家の言葉を肝に銘じておきたい。
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